創作ノート:安眠装置

「安眠装置」
〜ラベンダーのポプリよりクローン羊の数え方〜

クローン羊、ドリー。
スコットランド、ロスリン研究所でイアン・ウィルムット博士らのグループによって生みだされた雌の羊だ。
紛れもなく1997年のトップニュースであり、倫理的波紋は世界中に拡がった。

眠れない夜は羊を数える。
昔ながらの睡眠療法でいえば、このほかに伝統的なハーブの効能として古くから知られるラベンダーのポプリがある。
精神安定や鎮痛、殺菌などに効果があるとされる民間療法だ。

この作品では、これらの伝統的な民間療法を科学の最先端技術との対比として用いた。
フラスコの中のポプリの香りはチューブを通って、コピーを繰り返し増殖していく羊の群れを抜け、
電気コードでつながれた枕カバーに到達する・・・。
眠りを誘う「装置」というわけだ。

科学の歴史は常に倫理とのせめぎ合いの歴史でもあると思う。
Do Androids Dream of Electric Sheep?

詩人・田村隆一は、私がもっとも敬愛する詩人だ。
彼は1998年8月に他界したが、同年5月に発売された最後の詩集『1999』に次のように書いた。

さよなら 遺伝子と電子工学だけを残したままの
人間の世紀末
1999