創作ノート:聖バルバラ(Sancta Barbara)

「聖バルバラ」は3世紀キリスト教迫害の時代に殉教した女性。
その美しさのため求婚者たちから遠ざけるべく父親によって塔に幽閉されるが、閉ざされた生活の中で信仰に目覚める。様々な拷問を受けるも神の奇跡によって傷が癒されたため、最後には父親の振り下ろした剣で命を絶たれた。その父親も振りかざした剣に雷が落ち、落命したという。
火を扱う危険な仕事に従事するもの、鉱夫や囚人の守護聖人。

「聖バルバラ」を描いたもので有名なのは、15世紀の初期フフランドル派の画家ヤン・ファン・エイクのドローイングだろう。
ゴシック建築の大聖堂をバックに、たっぷりとしたスカートの布を拡げて座したバルバラ。
バルバラのアトリビュートは多い。3つの窓をもつ塔(3つの窓はキリスト教の三位一体を表している)、棕櫚の枝、蝋燭、剣、聖杯、稲妻、本などが描かれる。

作品には、このドローイングの一部分を用いた。

焦げた窓枠。
窓の向こうには稲妻。
溶けた蝋燭。
浮かぶ傘。

稲妻、神のいかづち。この「聖なる火」は崇高なるカタルシスを纏い、父と娘の悲劇を象徴している。
「火」は火の鳥(不死鳥)に表されるように浄化と再生の意味も持つ。
傘は身を守る象徴として用いた。