創作ノート:聖フィナ

私にはお気に入りのカトリック聖人が何人かいる。
オスカー・ワイルド「サロメ」に登場する洗礼者ヨハネは乙女に恋い焦がれられる賢者のイメージだが、実は荒野で生活し、ラクダの衣を纏い野蜜を食す野趣溢れる人物。その祝日が「夏至」というところも気に入っている。
メディチ家の守護聖人であり、医者として活躍した双子の聖人、聖コスマスと聖ダミアヌス。これは「双子の物語」というものに惹かれているせいもある。
アイルランドの守護聖人、聖パトリックも捨て難い。

そして「スミレの聖女」、聖フィナ。イタリア・トスカナ地方のサン・ジミニャーノの守護聖人。10歳で病に臥すが寝たきりの状態でも信仰厚く、ネズミにたかられても耐えたという。
3月12日に15歳で亡くなった時には町中に鐘が鳴り響き、スミレが咲き乱れたという逸話が残る。

カトリックの聖人の多くがいわゆる殉教者であり、血なまぐさい悲劇的な死を遂げている。
さもなくば奇跡を起こしたり、竜退治などの英雄といった劇場型の人物が多い。
聖フィナにはそういった激烈なところがないのが好ましい。

ひっそりと可憐で、なんとも「スミレの聖女」の名にふさわしい。というわけで、この作品には特別な思い入れがある。
小さな祈りにふさわしいように、小さな箱を選んだ。