創作ノート:時祷書1月 -Knock on the DOOR-

中世ヨーロッパでは豪華な時祷書が数多く作られ、最も有名な彩飾写本に、『ベリー公のいとも豪華なる時祷書 Tres Riches Heures of Jean, Duke of Berry』がある。
制作は1413年に始まり、1416年に依頼者のベリー公、作者のランブール兄弟が亡くなったため一時中断。15世紀半ばにルネ王周辺の画家が手を加えた後、1485-89年頃にジャン・コロンブが完成させたとされている。

その構成は、


主に新約聖書の各場面を描いた「聖母の小聖務日課」
「悔悛詩篇・連祷」
「死者の聖務日課」
「ローマ地図」
「受難の聖務日課」

1月は、「新年の祝宴につくベリー公」。

ベリー公の館で新年を祝う宴が繰り広げられ、
右の青い服の恰幅良く威厳ある人物がベリー公ジャン1世(1340-1417)。
その頭上のタペストリーには 愛人・ウルシーヌをあらわす熊(ウール/ours)と白鳥(シーヌ/cygne)。
背景のタペストリー(織物)はギリシア神話のトロイ戦争を描いたもの。
ベリー公は百年戦争中にフランス国内の対立を収めるために尽力した。
百年戦争は、フランスの王位継承をめぐり、イギリスとフランスが戦ったもので、1339年、イギリスの宣戦布告から1453年、ボルドー陥落までの約100年間。
百年戦争といえばジャンヌ・ダルク。オルレアン解放を導いたジャンヌは後に火刑になるも、カトリック教会において聖人に列せられている。

暦とはめぐる季節をわかりやすく数字で表したものだ。
天文学の結晶でもある。
地上に生きるものの営みにロマンが生まれる。

1月はローマ神話ではヤヌスの季節。
ヤヌスは2つの顔を持ち、始まりと終わりを司る。
扉の神でもある。
まさに1月にふさわしい神だ。

Knock on the door!