創作ノート:時祷書9月- Prepared for a storm –

『ベリー公のいとも豪華なる時祷書 Tres Riches Heures of Jean, Duke of Berry』では、9月は「葡萄の収穫」。

葡萄の収穫の季節。背景にはソミュール城。
ソミュール城は、フランス中西部の都市ソミュールの、ロワール川を見下ろす高台にある城で、王家の谷の歴史街道上にある。
ロワール地方は有名なワインの産地で、中世の頃から葡萄の栽培が盛んだったようだ。
中世ヨーロッパでは、葡萄栽培農家では農民もワインを飲んでいたようだが、その他の農民は口にすることはなかったそうだ。
この葡萄の収穫も、その多くはベリー公のためであったことだろう。

9月の作品は、台風一過をイメージした。
台風のために早々と落とされてしまった、色づく前の青いどんぐりは9月にふさわしい。

夏の名残の暑さと秋の気配が入り混じり、嵐を呼ぶ。
全てをかき消してしまうような強い風と雨が、一気に季節を変えてしまう。
台風の古称である「野分」は、野の草を吹き分けるほどの強い風という意味だ。

9月は3月と同じように風のダイナミズムのある季節。

ウッディ・アレン監督の映画に『September』で、
女性が男性に向かって“わたしはもう秋ね”という印象的なセリフがある。
弾けるような若々しさを失ったとしても、彼女はまだ十分に若く、そのセリフの響きに
誘惑の甘美さを感じた。

9月、若さの名残の切なさ。