創作ノート:時祷書11月-From autumn to winter-

『ベリー公のいとも豪華なる時祷書 Tres Riches Heures of Jean, Duke of Berry』では、11月は「豚に団栗の実を食べさせる男」
冬支度のために家畜を太らせ、長い冬に備える。
中世の農民にとって、家畜である豚にドングリを食べさせることは、この季節の重要な仕事のひとつだ。

ヨーロッパを起源とする作物はエンドウ豆やソラ豆しかなく、また降水量が少ないため、今でも牧草地としてしか利用できない農地が40~80%を占めているという。
さらに土地が痩せているため、同じ畑で毎年麦を連作できず、アルプス以北は、農作ができる平地が少なく広大な森林に覆われている。
そして、その森を形つくるのは主に広葉樹であり、秋になると多くのドングリを付ける。

ドングリを有効に使える家畜といえば豚。
豚は、反芻動物ではないので草類で飼育できない。しかも近辺の樫やブナの森に放牧しておけば、勝手にドングリで成長してくれる。
そういったことから、農民たちは豚を飼育した。

しかし、冬になると餌が不足し、それでは冬を越すことができないため、晩秋までにドングリをたっぷりと食べさせて太らせ、冬には全て屠畜して保存した。
肉を長期にわたって保存する、ということでヨーロッパではベーコンやソーセージ、ハムなどが盛んに作られる。
中世ヨーロッパの農民の生活を支えたのは、広大な森と豚だったのだ。

「秋から冬へ」、11月にふさわしいフレーズ、そして詩。
詩人・田村隆一の『誤解』。

秋から冬へ
人の影も物の影も長くなる
どこまでも長くなって
人と物は小さくなる
人については
僕も少しは知っている
政治的な肉体にエロスの心が閉じこめられている存在
若いときは誤解したものだ
エロスは肉体にやどり心は政治に走ると
そしていまも誤解しているのかもしれない
人の影と物の影がかさなりあって
暗くなって行く世界を

11月に、ごく限られた穏やかな、光と色彩の輝くような日がある。
その日が終わると、本格的な冬が始まるようだ。