創作ノート:詩人の靴

大正から昭和にかけて、短い期間ではあったが斬新な作品を残した小説家・尾崎翠の短編に「詩人の靴」という作品がある。
今回の作品はこの短編のタイトルからインスピレーションを得た。

詩人の靴は燃えている!
燃えながら歩き、歩きながら燃え、
その燃え尽きた灰からは新しい緑が生まれる。

さながら不死鳥のような靴だ。
創作の熱情とはこのようなものであると思う。

尾崎翠は今ではコアなファンを持つ稀有な作家というイメージだが、
学生時代から故郷である鳥取と東京を行ったり来たりしながらの作家活動。処世の不器用さ。
もちろん、時代的にも女性が作家として身を立てて生きていくことは相当に困難なことだったろうと思う。
常用していた頭痛薬の影響から体調を崩し、37歳で家族により強制的に帰郷させられた後は創作から遠のき、ついには忘れられた存在となった尾崎の再評価は、74歳で亡くなる2年前から少しずつ進み、死後、全集の刊行やその生涯を題材とした映画が製作されるなど、今に至っている。

亡くなる数日前、病室で「このまま死ぬのならむごいものだねえ」と言って大粒の涙をこぼしたという。人の人生を単純に幸・不幸で語ることはできないが、最後の言葉からはいたたまれない気持ちが残る。

尾崎翠のような作家を考える時、どのような人生を送ったにせよ、その作品はやがて一人歩きを始め、消えたかに見えた小さな炎が再び燃え出すように、蘇るのだろうと思う。