創作ノート:alphabet

「アルファベット」という呼び方はギリシャ文字のα, β の読み方である「アルファ」と「ベータ」に由来する。
「始めに言葉ありき」・・・文字は偉大な発明だ。

近所にコンクリートの壁が続く場所がある。長年の風雨にさらされ、まるで抽象画のような実にいい感じの模様ができている。
しばし立ち止まり感嘆する。
そういえば、レオナルド・ダ・ヴィンチは壁のシミから大いにインスピレーションを得ていたという。

この作品では、コンクリートの壁とアルファベットのシールを組み合わせた。
文字はアルファベットとして並ぶだけなら、言葉の意味をなさない。
単なる記号で、壁のシミとなんら変わりはない。が、その配列には美しさがある。

片隅にヤギを配した。
聖書において悪の象徴とされる、大変気の毒な動物だ。
最後の審判では、救われるものは神の右手に羊として、呪われたものは左手にヤギとして描かれる。
比喩とはなんとも恐ろしい。

言葉も図像も抽象的であれ!なんの意味も入り込む隙のないように!
初期キリスト教が偶像崇拝を禁じたのも感覚としてわかるように思う。

抽象と具象、比喩的なるものと意味をなさぬもの。
だが、人は何の意味もない壁のシミ、風景、建物にも意味を見出してしまう。