創作ノート:「象は忘れない」

「象は忘れない」
イギリスのミステリー作家、アガサ・クリスティの作品で、名探偵エルキュール・ポワロのシリーズ長編第32作目である。
このタイトルは「象は恨みを忘れず、必ず報復する」に由来するという。

このミステリーを題材にした作品。
ほぼ毎年参加してきた「本の展覧会」に出品するためのものだ。
この展覧会には1998年から関わっているが、やはりテーマが「本」ということなので、長年にわたるとテーマに添うのに苦心することもあり、今回は久しぶりの参加となった。

色味としてどこかに、非人間的な「冷たい青」を用いることを意識した。
本作には登場しないのだが、「毒」のイメージの色である。
結果、いい色が出せたと思う。少し濁りのある暗い青味。

しかし、アガサ・クリスティのヴァリエーションの妙技には感嘆させられる。
殺人とその謎解き。簡単に言えばこれだけの話なのだから。
人間の欲望、嫉妬、復讐などの暗い情念の問題に斬新なトリック、ユーモアと良識を織り交ぜ、いくつもの物語を生み出す。

作品には作者の土着的な要素(体質のようなものと言って良いと思うが)が根底に流れている。
ゆえにマンネリズムに陥る危険性が常にある。
しかし、それをも超える「大いなる、愛すべきマンネリズム」にたどり着くことが作品を生み出す者の一つの到達点ではないかと思う。