創作ノート:春雷

冷たい空気と暖かい空気が混じり合う、季節の変わり目の不安定な天気。
雷鳴は春の訪れを告げる。

雷はギリシア神話の主神ゼウスの武器だ。
全知全能の神であるゼウスは天候を支配し、その武器である雷は全宇宙を焼き尽くす威力なのだそう。
北欧神話では雷神はトール。北欧神話の主神オーディンの息子だが、元々は最高神であったという。
武器は稲妻を意味するという槌で浄化の作用もある。

キリスト教迫害の時代、聖バルバラの殉教の伝説では、バルバラは父親の剣によって命を絶たれるが、その父親も雷に打たれて命を落とす。

古事記、日本書紀では、それぞれに少し話が違ってはいるが大筋は、火の神を産んだことにより命を落としたイザナミに雷神が宿るというもの。
亡くなった妻を慕うあまり黄泉の国まで会いにきたイザナギが「自分の姿を決して見ないように」という約束を破ってしまうと、
おぞましく朽ちていく体に八つの雷神が宿り、イザナギを襲う・・・。

神の雷(イカズチ)、古の人たちは雷の圧倒的なエネルギーに「神の恐ろしさ」をみたのだろう。

牧歌的な情景に稲光。
夏の雷の激しさと違って、春の雷は小さく轟く。
遠く、そして短い。それが日常に小さな歪みを生む。
春は「不穏」という言葉がよく似合う。