創作ノート:時祷書3月- childhood –

『ベリー公のいとも豪華なる時祷書 Tres Riches Heures of Jean, Duke of Berry』では、3月は「牛に鋤を牽かせる農夫」。

農夫が畑を耕し、種まき、葡萄の木々の手入れなど農民の姿が描かれている。この「3月」はランブール兄弟ではなく、後世の画家の手によるものと推測されている。
背景には、ベリー公がもっていたリュジニャン城とドラゴンが描かれ、これは、ジャン・ダラスがベリー公のために書いた、リュジニャン城の話「メリジェーヌの物語」を題材にしたもの。

メリュジーヌ(フランスで伝承されている蛇女で、メリサンドという名で民話に残っている。上半身は美女、下半身は蛇で、背中にはドラゴンの翼を有する)は、美女の姿でレモンダンという若者と恋におち、土曜日に自分の姿をけっして見ないことを条件に結婚。そしてレモンダンとの間に10人の子供をもうけ、夫に富をもたらす。

レモンダンはリュジニャン城を築き、町は栄える。しかし、ある時レモンダンは約束を破り、メリュジーヌの本当の姿を見てしまう。約束を破られたメリュジーヌは竜の姿になって城を飛び出していき、その後リュジニャン城の代々の城主や子孫が亡くなる直前には竜の姿を現すようになった。

異形の女と、人間の男の結婚の物語は世界各地にあるが、このドラゴンの物語が好きだ。
ちなみに、3月20日の誕生石はドラゴン・パール(いびつな形がドラゴンの爪や牙などを連想することから名付けられた)なのだそうだ。
3月は農耕暦では、1年の始まりの月。

「3月」の作品で用いた写真の、小さな女の子達のガーデンパーティーは微笑ましい。
女の子は集まり、食べ、おしゃべりをする。
3月といえば「桃の節句」ひな祭りは女の子の健やかな成長を祝う祭りではあるが、雛人形は婚礼を表し、いかに結婚というものが人生の一大イベントとして幼い頃から刷り込まれていくことか。それはさておき、春と婚礼が結びつくのも生物の自然な流れと言える。

「二月の雪、三月の風、四月の雨が美しい五月をつくる」という言葉があるが、
私はとりわけ「3月の風」を好んでいる。移ろう季節のダイナミズム、狂騒、変革の嵐。
何か、新しいことが始まるという期待感。