創作ノート:時祷書4月 /追憶- Reminiscence –

『ベリー公のいとも豪華なる時祷書 Tres Riches Heures of Jean, Duke of Berry』では、4月は「王子の婚姻」。
司祭と豪奢な衣装を身にまとった花婿・花嫁。侍女たちが花を摘んでいる。
中世ヨーロッパでは、3・4・5月の農繁期は結婚が禁じられていたという。この場合、王侯貴族の婚姻だから問題はないのだろうか。(1説には4月に婚約しても実際の結婚は6月だったそう)

花嫁のモデルはベリー公の娘マリー・ド・ベリー(1367-1434)。
背景に描かれているのはドゥルダン城。1385年にベリー公が手に入れた城で、100年戦争中は、1428年にイギリス領となる。幽閉されたエティエンヌ・ド・ヴィニョールを、1431年にジャンヌ・ダルクが救出した城でもある。

「荒地」の創作ノートでも書いたが、
詩人エリオットによれば、四月は「追憶に欲情をかきまぜたりする」残酷きわまる月なのだ。

「4月」の作品は、タンポポの綿毛の瓶詰め。
一斉に風に舞う次世代の命たち。
多産の象徴うさぎ。しかし、それは墓標。

4月はまだ3月の狂乱の続きにある。その危うさ、4月の夕暮れ時のなんともいえない怪しさ。
確固たる美しさの5月を前にして、北欧や中欧などでは4月30日に魔女の集会「ヴァルプルギスの夜」が行われる。

4月とは「春」というダイナミズムの最後のあがき。