創作ノート:「冬 −望郷−」

20歳で上京して30年近くになる。
最近になって高校時代の同級生の活躍や後輩の訃報を立て続けに聞いた。
特に仲良く付き合っていたわけではなく、単なるクラスメイトだったが、同級生の活躍はとても喜ばしかった。卒業してから全く噂さえ聞かなかったけれど、長年の努力が報われたような形でのニュースであった。

反対に、後輩の訃報は相当にショックで、思い出が急に手の届かないところへと遠のいたような気がした。年に一度は必ず帰省していたし、特に故郷を懐かしむということは今までなかったけれど、古い友人たちのことを思い出すと無性に望郷の念にかられ、何か故郷にまつわる作品を作ってみようという気になった。

大分県別府市から湯布院へ向かう「やまなみハイウェイ」。
雄大さと山のエネルギー、この高原地帯の美しい景観に憧れがあり、
特にこの場所の冬の景色が好きだった。
この作品ではその冬景色の写真を使った。20代の頃に撮りためておいたものだ。
縦に細長い窓の中に押し込めたから、見る人がこの場所を知らなければ、
それが雄大な高原の景色だとはわからないだろう。
「望郷」とは極めて個人的な感情であり、他人には理解しがたいものだと思う。
この窓の向こう側の景色のように。

「犬」はワイエスやデューラーが描くような猟犬タイプのスレンダーなフォルムを持つ犬を用いた。
白い美しい犬。
チワワはご愛嬌、しかし良いアクセントになった。