創作ノート:時祷書12月/オブジェ

「時祷書」とはカトリックのキリスト教で用いられる祈祷文や聖務日課などの礼拝の手引書をいう。なぜ、そのように多分に宗教的な時祷書というものに魅せられるのか。

私が聖書の世界に惹かれるのは、人間的な物語の宝庫だからだが、15世紀の「ベリー公のいとも豪華なる時祷書」に代表されるような、豪華な装飾写本としての時祷書は、当時の王侯貴族たちの財力、職人の技術の限りを尽くして、ただただ美しいオブジェとして昇華している。
ため息が出るような美しい本。

しかし、それと同じように心惹かれるのは「貧者の聖書」と呼ばれる本だ。
文字が読めない貧しい人々のために、図像で聖書の物語が理解できるように作られた木版の簡素な本。

この作品では、その素朴さを発展させ、ミニマルな形にできないか。
ということで、神の子羊になぞらえて羊毛フェルトで本を形つくった。
ただ、それだけでは四角いフェルトのかたまりで味も素っ気もない・・・。
そう思ってしまうところがミニマリストになり得ないところなのだ。

優美さを求めて、和紙のカバー(もちろんマーブル模様)とリボンをかけたが、思惑通りの効果があったと思う。